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山口地方裁判所 昭和34年(行)1号 判決

下関市大字田中町字田中町四ノ一六

原告

松永美佐子

右訴訟代理人弁護士

古谷判治

右同

松野一衛

同市上田中町山ノ口

被告

下関税務署長

中村竜登

右指定代理人

山田二郎

右同

久保田義明

右同

岸田雄三

右同

吉富正輝

右同

浅田和男

右同

石田金之助

右同

岡野進

右同

山根功

右同

池田博美

右当事者間の所得税更正決定等取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和三〇年八月二四日付で原告に対してなした昭和二八年度および昭和二九年度分所得税更正処分(ただし、昭和三三年一一月四日広島国税局長の審査決定により一部取消された部分を除く)は、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。

原告訴訟代理人は、請求原因として次のとおり述べた。

一、被告は、昭和三〇年八月二四日原告の昭和二八同二九各年度分所得税確定申告に対し、昭和二八年度分事業所得(質屋営業所得および貸金営業所得)金額を二、〇二〇、三〇〇円に(給与所得金額は申告どおり一七〇、〇〇〇円)同年度所得税額を九一八、一〇〇円に、昭和二九年度分事業所得(質屋営業所得および貸金営業所得)金額を四、五〇一、六七〇円に(給与所得金額は申告どおり一八九、一五〇円)同年度所得税額を二、三七二、六二〇円に各更正決定をした。

二、原告は、右各更正決定には不服であるため、被告に対して再調査の請求をしたところ、被告は昭和三二年一一月一三日右請求を棄却した。

三、そこで、原告は、昭和三二年一二月一一日広島国税局長に対し、審査請求をしたところ、広島国税局長は、昭和三三年一一月四日、前記更正決定につき、昭和二八年度分事業所得(質屋営業所得および貸金営業所得)金額更正決定額二、〇二〇、三〇〇円のうち、三九九、七〇〇円を取消して右金額を一、六二〇、六五九円とし、同年度所得税額更正決定額九一八、一〇〇円のうち二〇八、九〇〇円を取消して右税額を七〇九、二〇〇円とし、昭和二九年度分事業所得(質屋営業所得および貸金営業所得)金額更正決定額四、五〇一、六七〇円のうち一、〇二三、三四〇円を取消して右金額を三、四七八、三二六円とし、同年度所得税額更正決定額二、三七二、六二〇円のうち六一三、九八〇円を取消して右税額を一、七五八、六四〇円とする審査決定をし、原告は、右審査決定を昭和三三年一一月一二日受領した。

四、しかしながら、被告のなした前記更正決定は、昭和二八年度分事業所得につき、貸金営業所得を認め、昭和二九年度分事業所得につき三六四、〇〇〇円を超える貸金営業所得を認めている点において、前記審査決定により一部取消された部分を除いてもなお事実に反し違法である。

被告指定代理人は、原告主張の請求原因第一ないし三項の事実は認め、同第四項は争うと述べ、次のとおり主張した。

被告が原告の昭和二八年度分ならびに昭和二九年度分所得税確定申告に対してなした更正決定につき、原告主張の審査決定により認可された部分は、左記事由に基づいて適正になされたものである。

一、昭和二八年度分所得金額について

(一)  原告の昭和二八年度分の総所得金額は、(1)給与所得一七〇、〇〇〇円、(2)雑所得五八二円、(3)事業所得一、六二〇、一五〇円(質屋営業所得五五、六〇八円および貸金営業所得一、五六四、五四二円)である。

(二)  貸金営業所得一、五六四、五四二円について

原告は貸付金の回収額を架空名義の預金として預け入れていることが認められるので、昭和二八年度におけるこれら預金の総預け入れ額から貸付金の回収ではない預け入れ額(預金利子、下関市役所の金券)を控除した四、八四三、七八六円を貸付金総額と認めて、これに収入利息の割合三八%を乗じて貸付金の収入利息一、八四〇、六三八円を算出し、さらにこれに所得標準率八五%を適用して貸金営業所得一、五六四、五四二円を算出した。

なお、右原告の架空名義預金の総預け入れ額および貸付金の回収額以外の預け入れ金額の明細は別表第一のとおりである。

二、昭和二九年度分所得金額について

(一)  原告の昭和二九年度分の総所得金額は、(1)給与所得一八九、一五九円、(2)事業所得三、五二四、七六四円(質屋営業所得二、〇三三円および貸金営業所得三、五二二、七三一円)である。

(二)  貸金営業所得三、五二二、七三一円について

原告の昭和二九年度分貸金営業による所得金額は、左記(イ)の金額二、五一九、一一七円と(ロ)の金額一、五三〇、〇〇〇円の合計四、〇四九、一一七円に広島国税局長の定めた所得標準率八七%を乗じて算出した

(イ)  長野平蔵以外の者に対する貸付収入二、五一九、一一七円

原告は、昭和二八年度分と同様、貸付金の回収額を架空名義の預金として預け入れていることが認められるので、昭和二九年度におけるこれら預金の預け入れ総額から長野平蔵に対する貸付金の回収額と、貸付金の回収ではない預け入れ額(預金利子、預金相互間の振替)を控除した六、六二九、二五六円を貸付総額として、これに収入利息の割合三八%を乗じて貸付金の収入利息二、五一九、一一七円を算出した。

なお、右原告の架空名義の総預け入れ額および貸付金の回収額以外の預け入れ金額の明細は別表第二のとおりである(ただし長野平蔵に関する部分を除く)。

(ロ)  長野平蔵に対する貸付収入一、五三〇、〇〇〇円

原告は、昭和二九年度において、長野平蔵から、(A)長野平蔵振出の小切手を受け入れて原告の架空名義の預金に預け入れている収入利息八七八、〇〇〇円、(B)長野平蔵の小切手を受け入れて原告が現金換えしている収入利息四六七、〇〇〇円、(C)原告が長野平蔵に貸付けた際天引した収入利急一八五、〇〇〇円合計一、五三〇、〇〇〇円の貸付収入利息を受け入れている。

なお、右原告の長野平蔵に対する貸付による収入金額の明細は、右(A)については別表第三、(B)については別表第四、(C)については別表第五のとおりである。

三、昭和二八、同二九各年度分所得税額の計算方法について

被告が行なつた本件課税処分における昭和二八、同二九各年度分の所得税額(審査決定により一部取消された後の更正決定による額)および重加算税の計算方法は各別表第六、第七のとおりである。

もつとも、昭和二八年度分の税額は、七三五、〇〇〇円となるところ、審査決定の際の計算誤謬により右税額を七三〇、七〇〇円として課税処分した。

原告訴訟代理人は、被告の主張事実に対し、次のとおり答弁した。

一、昭和二八年度分所得金額について

(一)  被告主張の総所得金額のうち、(1)給与所得金額、(2)雑所得金額、(3)事業所得金額中質屋営業所得金額は認める。

(二)  貸金営業所得一、五六四、五四二円について

被告の主張はすべて否認する。

二、昭和二九年度分所得金額について

(一)  被告主張の総所得金額のうち、(1)給与所得金額、(2)事業所得金額中質屋営業所得金額は認める。

(二)、貸金営業所得三、五二二、七三一円について

(イ)  長野平蔵以外の者に対する貸付収入について

被告の主張はすべて否認する。

かりに、被告主張の架空名義の預金が原告の預金であつたとしても、その預け入れ、払い戻しの事実のみによつて貸付の認定をすることはできない。

(ロ)  長野平蔵に対する貸付収入について

被告の主張は争う。

原告の長野平蔵に対する貸付収入利息の合計額は三六四、〇〇〇円であつた。

三、昭和二八、同二九各年度分所得税額の計算方法について

いずれも認める。

証拠関係は次のとおりである。

原告訴訟代理人は、甲一ないし五号証を提出し、証人長野平蔵の証言(第二回)、原告本人尋問の結果(第一、二回)を援用し、被告指定代理人は、乙一ないし八、九の一、二、一〇の一ないし一一、一一の一ないし八、一二の一、二、一三の一ないし五、一四の一ないし一二、一五の一ないし六、一六の一ないし三、一七の一ないし一一、一八の一ないし六、一九の一ないし三、二〇の一、二、二一ないし三一、三二の一、二、三三ないし三九、四〇の一ないし七、四一ないし四九、五〇の一ないし五、五一の一ないし一九、五二、五三の各一、二、五四、五五、五六、五七の各一ないし三、の各号証を提出し、証人長野平蔵(第一回)、同川波正利、同古谷勇、同岩本茂、同田原広、同中西良一、同池田政助、同野村政一、同山本信登、同米沢久雄、同浅田和男、同安藤宏の各証言を援用し、甲各号証の成立は認めると述べ、原告訴訟代理人は、乙一九の一ないし三、二〇の一、二、二二、二三、三七ないし三九、四〇の一、二、四一ないし四九、五〇の一ないし五、五一の一、五二、五三の各一、二、五四、五五、五六、五七の各一ないし三、の各号証の成立は認め、その余の乙各号証の成立は不知と述べた。

理由

被告は、原告の昭和二八、同二九各年度分所得税の確定申告に対し原告主張の更正決定をなし、これに対する原告の再調査の請求を棄却し、広島国税局長は、前記更正決定に対する原告の審査請求に対し原告主張の審査決定をしたことは、当事者間に争いがなく、また原告の昭和二八、同二九各年度分所得金額のうち、給与所得金額、雑所得金額、事業所得金額中質屋営業所得金額、および昭和二八、同二九各年度分所得税額の計算方法については、いずれも当事者間に争いがない。

本件の争点は、結局、原告の昭和二八、同二九各年度分貸金営業所得の金額にあるから以下判断する。

一、原告の預金について

(一)  下関信用金庫新地支店村上マサ名義の普通預金について

(イ)、原告は磯部政二から下関信用金庫の出資持分二〇口を譲り受け昭和二六年一二月二一日金庫に届出て(成立に争いない乙第一九号証の一)、金庫の配当を昭和二九年五月一七日八五〇円、昭和三〇年五月二三日八五〇円受領しているところ(成立に争いない乙一九号証の三)、右配当金八五〇円を昭和二九年五月二四日本預金に入金し、(証人山本信登の証言により成立を認める乙九号の証一、証人川波正利の証言により成立を認める乙一号証)、さらに右配当金八五〇円を昭和三〇年五月二三日本預金に入金していること(証人山本信登の証言により成立を認める乙九号証の二、前掲乙一号証)、

(ロ)  原告宛の支払通知書二口の金額が昭和二八年一一月一七日本預金に入金されていること(成立に争いない乙二〇号証の一、二、証人川波正利の証言により成立を認める乙八号証、前掲乙一号証)、

(ハ)  株式会社柳本商店が昭二八、同二九年頃手形割引の方法で原告から借り入れを受けていたところ(弁論の全趣旨により成立を認める乙三〇号証)、右柳本商店から受け取つた割引手形を原告名義の別段預金に振り込んだうえ本預金に振替入金していること(証人川波正利の証言により成立を認める乙一一号証の一ないし八、前掲乙一号証)、

(ニ)  右柳本商店が原告に対して支払つた小切手が本預金に振り込まれていること(証人川波正利の証言により成立を認める乙一〇号証の二ないし一一)、

(ホ)  有限会社ナイン工芸社が昭和二八、同二九年頃原告から借り入れを受けており、借入利息および返済金を当座預金から本預金に払い込んでいたこと(弁論の全趣旨により成立を認める乙三一号証、証人古谷勇の証言により成立を認める乙四〇号証の七)。

以上の事実によれば、下関信用金庫新地支店村上マサ名義の普通預金は原告の預金であることが認められる。

(二)  下関信用金庫新地支店中村昌二名義の普通預金について

(イ)  昭和二九年四月三日下関市金庫から原告の夫松永竜浩宛の金券八五〇円、また同月二七日下関市金庫から原告宛の金券一、九一三円がいずれも本預金に人金されていること(証人古谷勇の証言により成立を認める乙四〇号証の六、証人川波正利の証言により成立を認める乙一二号証の一、二、証人川波正利の証言により成立を認める乙二号証)、

(ロ)  本預金から昭和二八年一二月一八日九六、〇〇〇円を引き出し、(弁論の全趣旨により成立を認める乙一三号証の二、前掲乙四〇号証の六および乙二号証)、前記村上マサ名義預金から引出した一五六、〇〇〇円(弁論の全趣旨により成立を認める乙一三号証の一、前掲乙四〇号証の七および前掲乙一号証)、とあわせ同日右引出の合計金をもつて金庫の自己宛保証小切手額面金二五二、〇〇〇円として別段預金に振り込んでいること(弁論の全趣旨により成立を認める乙一三号証の三、四)、

(ハ)  前記柳本商店が利息支払または返済のために原告に対して振り出した小切手が本預金に入金されていること(証人川波正利の証言により成立を認める乙一四号証の一ないし一二、前掲乙三〇号証および乙二号証)、

(ニ)  柳本商店が、昭和二八年一二月五日一三、〇〇〇円、同月三〇日四五、一〇〇円の各小切手を、昭和二九年二月八日九五、四〇〇円、同月一二日一二五、〇〇〇円、同年三月一〇日一五〇、〇〇〇円の各約束手形を、同月二九日三〇、〇〇〇円、同月三〇日五八、九〇〇円、同年四月七日二二〇、〇〇〇円、同月二二日一一〇、〇〇〇円の各小切手を、同月二六日二八〇、〇〇〇円の約束手形同年六月一五日一四、〇〇〇円の約束手形(内五、〇〇〇円は小切手)をそれぞれ原告に手渡し、右小切手等が本預金に入金になつていること(前掲乙三〇号証、乙四〇号証の六および乙二号証)、

(ホ)  昭和二九年二月一一日前記ナイン工芸社振出の額面五、〇〇〇円の小切手が本預金に入金になつていること(前掲乙三一号証、乙四〇号証の六、乙二号証)。

以上の事実によれば、下関信用金庫新地支店中村昌二名義の普通預金は原告の預金であることが認められる。

(三)  山口銀行今浦支店河村武雄名義の普通預金について

(イ)  前記中村昌二名義預金から昭和二九年五月一日九七〇、〇〇〇円を引き出しているところ(前掲乙四〇号証の六)、同日現金三〇、〇〇〇円と金庫新地支店振出の保証小切手額面九七〇、〇〇〇円との合計一、〇〇〇、〇〇〇円が本預金に入金になつていること(弁論の全趣旨により成立を認める乙一五号証の一、証人古谷勇の証言により成立を認める乙四〇号証の三および証人川波正利の証言により成立を認める乙三号証)、

(ロ)  前記柳本商店が原告に手渡した割引手形が本預金に入金になつていること(証人川波正利の証言により成立を認める乙一五号証の二ないし六、前掲乙四〇号証の三、乙三号証)。

以上の事実によれば、山口銀行今浦支店河村武雄名義の普通預金は原告の預金であることが認められる。

(四)  山口銀行本店河村武雄名義の普通預金について

(イ)  前記山口銀行今浦支店河村武雄名義預金から昭和二九年九月一三日一七二、〇〇〇円を払出し、(証人川波正利の証言により成立を認める乙一六号証の一、前掲乙四〇号証の三)、右払出金を同日同人名義の別段預金となし(証人川波正利の証言により成立を認める乙一六号証の二)、同月一五日右別段預金を小切手で払出して本預金を新たに設定しこれに入金していること(証人川波正利の証言により成立を認める乙一六号証の三、証人古谷勇の証言により成立を認める乙四〇号証の四、および証人川波正利の証言により成立を認める乙四号証)。

以上の事実によれば、山口銀行本店河村武雄名義の普通預金は原告の預金であることが認められる。

(五)  下関信用金庫新地支店神尾三郎名義の普通預金について

(イ)  長野平蔵が原告から多額の借入れを受けていてその利息を小切手で支払つていたところ(証人田原広の証言により成立を認める乙三二号証の二、)右小切手が本預金に入金になつていること(証人長野平蔵の証言(第一回)により成立を認める乙一七号証の一ないし一一、証人古谷勇の証言により成立を認める乙四〇号証の五、証人川波正利の証言により成立を認める乙五号証)、

(ロ)  前記柳本商店が原告に手渡した割引手形の合計金四六三、六九八円が昭和二九年三月二七日本預金に入金になつていること(前掲乙三〇号証、乙四〇号証の五および乙五号証)、

(ハ)  前記ナイン工芸社の借入金の返済金一万円が昭和二九年六月二五日本預金に入金になつていること(前掲乙第三一号証、乙四〇号証の五および乙五号証)、

(ニ)  玉山輝義が原告から昭和三〇年二月一日一〇〇、〇〇〇円を借入れ、利息九、〇〇〇円を天引きされて保証小切手九一、〇〇〇円を原告から受け取つているところ(証人古谷勇の供述により成立を認める乙三五号証)、右貸付金が本預金から出金となつていること(前掲乙四〇号証の五および乙五号証)、

(ホ)  西日本相互銀行下関支店の村上政名義の普通預金は、その払戻請求書の「松永」の印影と原告の出勤簿の印影が同一であり、また同銀行の村上政名義の相互掛金契約書に記載されている住所および電話番号が原告の住所および電話番号であることなどから、右普通預金は原告の預金であると認められるところ(成立に争いのない乙二二、二三号証、証人川波正利の証言により成立を認める乙六号証、証人田原広の証言により成立を認める乙二四、二九号証、証人古谷勇の証言により成立を認める乙二五、二七、二八号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙二六号証)、神尾三郎名義の本預金から昭和二九年一二月二四日二〇万円また昭和三〇年二月二八日一〇万円が払出され、(証人川波正利の証言により成立を認める乙一八号証の一、四、前掲乙四〇号証の五、右払出金額が神尾三郎名義の別段預金とされた上、(証人川波正利の証言により成立を認める乙一八号証の二、弁論の全趣旨により成立を認める乙一八号証の五)、同日右別段預金から払出されて前記西日本相互銀行下関支店の村上政名義の普通預金に入金になつていること(証人川波正利の証言により成立を認める乙一八号証の三、同六号証弁論の全趣旨により成立を認める乙一八号証の六、)。

以上の事実によれば、下関信用金庫新地支店神尾三郎名義の普通預金が原告の預金であることが認められる。

(なおこれら神尾三郎、村上マサ(又は政)河村武雄、中村昌二らについて住所を調査した結果いずれも住所地及び下関市に居住していなかつたことについては、証人川波正利の証言参照)

二、原告の貸金営業について

(イ)  長野平蔵が原告から昭和二八年五、六月ごろ金一〇〇万円の手形貸付を受け、その利息は月一割であり、同三〇年ごろには右借入金は合計一七〇ないし一八〇万になつていたこと(証人長野平蔵の証言(第一回)、前掲乙三二号証の二)、

(ロ)  中西良一がその関係していた会社を代表して原告から昭和二八年ないし同三〇年ごろ金四五万円の手形貸付を受け、その天引利息は月六歩のちに八歩であつたこと(証人中西良一の証言、証人古谷勇の証言により成立を認める乙三三号証)、

(ハ)  池田政助が原告から金一〇万円の手形貸付を受け、その天引利息は月六歩であつたこと(証人池田政助の証言、証人古谷勇の証言により成立を認める乙三六号証)、

(ニ)  野村政一が原告から昭和三〇年ごろ四、五回にわたり各三万ないし七万円の小切手貸付を受け、その利息は月三分であつたこと(証人野村政一の証言、証人古谷勇の証言により成立を認める乙三四号証)、

(ホ)  玉山輝義は原告から昭和三〇年金九万余円の手形貸付を受け、その利息は月九分であつたこと(証人古谷勇の証言により成立を認める乙三五号証)、

(ヘ)  株式会社柳本商店は原告から昭和二六年ごろから同二九年ごろまで度々各一五万円ないし三〇万円の手形貸付を受け、その利息は月五分ないし六分であつたこと(前掲乙三〇号証)

(ト)  有限会社ナイン工芸社は原告から昭和二七ないし二八年ごろ数回にわたり金一五万円ないし二〇万円の貸付を受け、その利息は高利であつたこと(前掲乙三一号証)。

以上の事実によれば、原告は、昭和二七年ないし同三〇年ごろ、事業所得課税の対象となる貸金営業をしていたことが認められる。

三、貸金による収入利息について

(一)  長野平蔵以外への貸付分について

(1)  貸付金額

前記認定事実ならびに証人川波正利、同岩本茂、同米沢久雄の各証言によれば原告の前記預金(前掲乙一ないし五号証)への預け入れは貸付金の元利回収額であると推認でき、さらに右回収金額が同時にその年度中に殆んど全額貸出され、貸出回数は頻繁で月単位に回収して居たこと、原告は貸金所得について帳簿、伝票類を保存せず、納税に非協力であつて、他に適切な課税の資料を蒐集し得なかつた被告としては、本件課税に当り、推計課税の方法によらざるを得なかつたことが認められ、これらの証拠によると

(イ) 昭和二八年度分の貸付総額を、前記預金(前掲乙一、二号証)への昭和二八年中の預け入れ総額から貸金の元利金の回収でない金額(別表一)を控除した金四、八四三、七八六円、(前掲乙一、二号証)

(ロ) 昭和二九年度分貸付総額を、前記預金(前掲乙一ないし五号証)への昭和二九年中の預け入れ総額から貸金の元利金の回収でない金額および長野平蔵に対する回収分(別表二)を控除した金六、六二九、二五六円(前掲乙一ないし五号証、乙四〇号証の三ないし七)と推計した方法は合理的であると認めることができる。

(2)  収入利息

(イ) 昭和二八、同二九年ごろの貸金業の実態についての調査の結果によれば利息収入の割合が三八%であつたことが認められ(証人岩本茂の証言)、

(ロ) 原告と同業種で正確に記帳している下関所在の丸清金融有限会社に対する調査の結果によれば、貸付金の元利回収総額で収入利息額を除すと利子収入の割合は四五・九%であり、本件において被告の採用した利子収入の割合三八%は適正なものであると認められるから、前記昭和二八、同二九各年度元利回収総額に三八%を乗じ、(1)昭和二八年度分貸金による利息収入一、八四〇、六三八円、(2)昭和二九年度長野平蔵に対する貸付による収入利息を除くその他の貸金による利息収入二、五一九、一一七円と算定した被告の推計方法はこれを是認することができる。

(二)  昭和二九年度長野平蔵に対する貸付分について

(1)  長野平蔵払出の小切手を受け入れて原告の前記預金に預け入れている収入利息(別表第三)について

(イ) 長野平蔵が原告に対し利息支払いのために振出した別表第三記載の各額面合計六二八、〇〇〇円(額面二五〇、〇〇〇円の分を除く)の小切手を同表記載の各年月日に原告が受け取り、裏書のうえ前記下関信用金庫新地支店神尾三郎名義普通預金に入金し、(証人長野平蔵の証言により成立を認める乙一七号証の一ないし九、前掲乙四〇号証の三、同号証の五、証人浅田和男の証言により成立を認める乙五一号証の二、成立に争いない乙五〇号証の二ないし五)、

(ロ) 長野平蔵が原告に対し利息支払いのために振出した別表第三記載の額面二五〇、〇〇〇円の小切手を昭和二九年一〇月四日原告が受け取り、裏書のうえ前記山口銀行本店河村武雄名義普通預金に入金しているから(証人長野平蔵の証言により成立を認める乙五一号証の九、一〇、前掲乙四〇号証の四、乙五一号証の二、乙五〇号証の三)、

以上合計八七八、〇〇〇円が、原告の右収入利息であると認められる。

(2)  長野平蔵振出の小切手を受け入れて原告が現金換えをしている収入利息(別表第四)について

長野平蔵が原告に対し利息支払いのために振出した別表第四記載の各額面の小切手を同表記載の各年月日に原告が受け取り、裏書のうえ現金化しているから(証人長野平蔵の証言により成立を認める乙五一号証の三ないし八、一二、一三、一五、一六、一八、一九、弁論の全趣旨により成立を認める乙五一号証の一一、一四、一七、前掲乙五一号証の二、前掲乙五〇号証の三ないし五)。

以上合計四六七、〇〇〇円が、小切手で受け入れて現金換えしている収入利息であると認められる。

(3)  原告が長野平蔵に貸付けた際天引した収入利息(別表第五)について

原告が長野平蔵に別表第五記載の年月日に同表備考欄記載の貸付けをした際、利息として同表記載の金額を天引したうえ貸付金を手渡しているから(成立に争いのない乙四一ないし四九号証)、

以上合計一八五、〇〇〇円が、天引による収入利息であると認められる。

したがつて、(1)昭和二八年度分収入利息は一、八四〇、六三八円、(2)昭和二九年度分収入利息四、〇四九、一一七円(長野平蔵以外の者に対する収入利息と長野平蔵に対する収入利息との合計額)と認められる。

四、貸金業による事業所得について

被告が広島国税局管内の昭和二八、同二九各年度中の貸金業の実態について調査により判明した貸金業の所得標準率(収入に対する所得の割合)は、各八五%、八七%であり、(証人安藤宏の証言、成立に争いない乙五四、五五号証)右調査に基づく所得標準率は適正なものであると認められるから、昭和二八、同二九各年度利息収入に各八五%、八七%を乗じ、(1)昭和二八年度貸金業による事業所得一、五六四、五四二円、(2)昭和二九年度貸金業による事業所得三、五二二、七三一円と算定した被告の推計課税方式は合理的なものとしてすべてこれを肯認することができる。

五、前記各認定に反する証拠について

前記各認定に反する原告本人尋問の結果(第一、二回)は、当裁判所として措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。(原告は前掲乙五一号証の九、一〇の小切手は家屋競落のため預けた代金の返還分であると供述するが、右供述は長野平蔵の証言(第一、二回)ならびに右小切手に河村武夫の裏書がなされていることに徴し到底信用できない。)

よつて、原告の昭和二八、同二九各年度分所得として前記認定のとおりの貸金営業所得金額と当事者間に争いのない他の所得金額を合算して各総所得金額を算定し、これに当事者間に争いのない前記昭和二八、同二九各年度分所得額の計算方法(別表第六、第七)により相当法条、税率を適用してなした本件各所得税更正処分は適正であるから、本訴請求を棄却し、訴訟費用について民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡村旦 裁判官 平山雅也 裁判官 大前和俊)

別表第一

〈省略〉

別表第二

〈省略〉

別表第三

〈省略〉

別表第四

〈省略〉

別表第五

〈省略〉

別表第六(昭和二八年分)

〈省略〉

別表第七(昭和二九年分)

〈省略〉

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